【くにのあとさき】東京特派員・湯浅博 「党益」が「国益」に優先とは(産経新聞)

 外交的センスのない国民は必ず凋落(ちょうらく)する。

 戦後の宰相、吉田茂が昭和9年秋、外交査察使として訪問したニューヨークで、旧知のエドワード・ハウス大佐から突きつけられた言葉である。大佐はウッドロー・ウィルソン大統領の顧問として活躍した戦略家であった。

 結果は周知の通りだ。吉田の外交努力は、憲兵による拘束で反撃を受けた。日本の主要都市は焦土と化し、米軍が主力の外国軍に占領された。吉田は後年、著書『回想十年』でこの挿話を紹介し、祖国・日本への教訓とした。

 ところが、教訓はなかなかいかされない。鳩山政権の外交的センスは疑問だらけである。

 日米合意を無視して普天間移設問題に火を付け、すでに明らかな「核持ち込み密約」をこと改めて政治問題化している。中国が軍拡を緩めないのに、「日米中は正三角形」などと同盟国・米国に距離をおく。まもなくインド洋から海自艦を撤退させて、国際協調に背を向けてしまう気だ。

 これで大衆の喝采(かっさい)を受け、「党益」は増大すると考えているらしい。だが、それで「国益」が失われては元も子もない。外交的センスのない国やそれを軽視する国は凋落していく道理である。

 彼らの党益とは、集票力と資金力を蓄えつつ選挙で勝利し、政権を盤石にすることだろう。国益の追及は日本の繁栄と安全を守ることに専心し、国民福祉を確保しようとする崇高な責務である。

 民主党の小沢一郎幹事長は、永住外国人に対する地方参政権の付与について、「日韓関係を考えると政府がやるべきだ」と言うが、在日韓国人への付与が日韓外交の最大懸案とは思えない。むしろ、参政権の付与に前向きな公明党を自民党から離反させる手立てに使われかねない。

 あの普天間飛行場の移設問題もまた、鳩山政権が外交の基軸だという日米同盟を揺さぶっている。

 思い起こすのは1995年夏、沖縄で起きた米兵による少女暴行事件である。いたいけな少女を陵辱する米兵の犯罪は、悪質の一語につきた。暴行事件は「基地」と「米兵」との関係を思い起こさせ、米国による占領期の屈辱と結びつく。その結果、11月のクリントン大統領の訪日は延期されてしまった。

 実は、この「感情」という要素が、戦後の日米安保体制を左右してきた。

 いまの普天間移設問題もまた、少女暴行事件のように人々の「感情」に火を付けている。マッチをすったのは米兵でも反戦グループでもない。地域「感情」の抑制を担うはずの鳩山政権そのものであった。

 見通しもないまま、「飛行場の移設先は国外か少なくとも県外」との幻想をふりまいた。「基地反対」の社民党は連立相手で大事だからと、政権維持を優先する。

 鳩山首相には世才も決断力もなく、あるのは、「沖縄県民の皆さんの気持ちが一番大事だ」というポピュリズムであった。暴走しかねない北朝鮮や軍拡に走る中国には目をつむってしまう。

 鳩山首相が決断ができないままに、自らの退路にまで火が回ってきた。ようやく安全保障の専門家に救援を求めている状態だ。専門家との会談後に首相が「抑止力」を口にするようになったのは、まだしも外交戦略を語る余地を残していたということだろう。

 国益を優先しなければ、日本の凋落は防げない。

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